頭痛の漢方治療講座の第6回目です。
今回は主にこの2つの頭痛についてです。
①転んで頭痛になったとき
②薬物乱用(ロキソニンとか)の頭痛
このシリーズはこれで最後です。長かった。。
※全部で6回もあるシリーズなので、こちらに目次をつくりました
【症状7】:顔面痛の女性
・自転車で買物に行く途中、転んでぶつけて目の回りが真っ赤になり、その後に紫色に変色した(皮下出血のはれ)
・頭痛もあり
所見)
・打撲で痛みがあり、むくんで紫斑(しはん)が出ている
・神経学的に問題はなく、MRの必要はなさそう
・右上が良く見えないとの事なので、眼球に問題がある可能性を考慮して、眼科で検診してもらう→異常なし
※紫斑(しはん):皮膚や粘膜の組織中に出血することによって起こる紫色の斑点。(デジタル大辞泉より)
処方)
治打撲一方(ちだぼくいっぽう)
経過)
2日後に浮腫(ふしゅ)、疼痛(とうつう)、紫斑が消えた
患者さん「こんなに早く治るとは!」
※浮腫(ふしゅ):顔や手足などの末端が体内の水分により痛みを伴わない形で腫れる症候。浮腫み(むくみ)ともいう。
※疼痛(とうつう):痛みを意味する医学用語
(Wikipediaより)
治打撲一方(ちだぼくいっぽう)とは?
打撲の漢方薬です。
そんなのがあったんですね!
捻挫、打撲、皮下出血、骨折などに良いそうで、腫れや痛みをやわらげます。
肋骨(ろっこつ)の骨折など、手術が出来なくてチェストバンドをしてじーっと治るのを待つしかない時にこれを飲むと、痛みが楽になるそうですよ。
「急性期こそ漢方薬」なので、この薬も転んだらすぐに飲むのがベターです。
骨折したり、ぶつかって青タンができたり、頭をぶつけて痛くなった時は、これを飲むと青タンもすぐにとれるそうです。
ただし、嘔吐などあった場合はMRをとってきちんと検査しなくてはいけないので気をつけてください、との事でした。
薬物(ロキソニンとか)乱用の頭痛
薬物とは、ロキソニン・イブ・セデスといった鎮痛剤のことです。
こういった痛み止めの乱用で頭痛になる人が増えていて、今とても問題になっているそうです。
・1ヶ月に15日以上、頭痛がある
・頭痛薬を3ヶ月をこえて定期的に乱用している
・1ヶ月に10日以上、痛み止めを使っている
・各種の鎮痛剤を、かわるがわる月に15日以上飲んでいる
こういった症状がある場合、このままいくと薬物中毒になってしまうおそれがあるので注意してください。
鎮痛剤って便利ですけど、怖いんですね。。
【症状8】:薬物乱用頭痛の女性
・49歳の女性
・数年前から頭痛がして、市販の頭痛薬を10錠毎週飲んでいる
所見)
・むくみあり(鎮痛剤を飲むと腎臓の血流が下がって体がむくんでしまう)
・頭痛、うなじのコリ、手足の冷えあり
・胃の不調あり(胃のむかつきがある)←鎮痛剤は胃に悪い
処方)
・五苓散(ごれいさん):むくみと歯痕あり=水毒の症状
・呉茱萸湯(ごしゅゆとう):頭痛、首のコリ、手足の冷え
この2つを同時に服用してもらう
経過)
・1週間後に胃の不調が改善(両方とも胃の薬)
・3ヶ月後にイブの服用がほぼなくなり、頭痛が出た時だけ飲むようになる
・6ヶ月後には漢方薬もほとんど不要となった
薬物乱用頭痛での漢方薬の飲み方
薬物乱用の頭痛は、漢方薬を1回飲んだだけで治るものではないので、長期的に飲んでいくことになります。
漢方薬を飲み続けて少しずつ鎮痛剤(イブとか)を抜いていって、鎮痛剤が必要なくなったら頭痛した時だけ漢方薬を飲む、という風にしていくそうです。
基本的に漢方薬は速攻性があるので、痛くなりそうな時に飲めば普通は収まるそうなのですが、薬物乱用の頭痛だけは別なんですね。
西洋薬の鎮痛剤はどれも胃に悪く、漢方薬はどれも胃に良いので、胃の不調も改善します。
五苓散とは?
生薬:沢瀉(たくしゃ)、猪苓(ちょれい)、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)、桂皮(けいひ)
何を治す:水毒による頭痛、嘔吐、下痢、発熱、口渇
臨床応用:熱中症、感染性胃腸炎、二日酔い、弾撥指(ばね指の事)、水痘、硬膜下血腫
※ばね指(ばねゆび)とは、手の指におきる腱鞘炎の一種。弾撥指(だんばつし)とも称される。
Wikipediaより
水毒の人に使う薬で、相手によって働きが変わります。
・脱水の人→尿を減らして体を守る
・むくんでいる人(必要以上に体内に水がある人)→尿をどんどん出して余分な水を外に出す
西洋医学的な薬理学だと、働きをどちらか一方に向かわせなくてはいけないので、「相手によって薬の働きが変わる」というのは考えられないし、薬として認められないのだそうです。
でも、実際の医療の現場で五苓散を使うと、理由はわからないけど確かにそういう働きがある。
最近になって、その理由も分かってきました。
私たちの細胞の表面には「アクアポリン4」というものがいっぱい出ていて、水分の出し入れを調節しているのですが、五苓散はそれをコントロールしているのだそうです。
水チャンネルとよばれるタンパク質の一種で、血管と中枢神経間における水分子の出し入れを調整している。
(東北大学大学院医学系研究科 多発性硬化症治療学寄附講座の用語解説より)
水が足りなくなると細胞の中の水を守ろうとし、逆に水があふれてくると細胞の中に水が入ってくるのを防ごうとする。
水分量を調節してくれるアクアポリン4に働くから、相手によって働きが変わるんですね。
アクアポリン4は頭の中にある「アストロサイト」という細胞の表面にいっぱいあって、それを五苓散がコントロールしているので、頭痛にも効くのだそうですよ。
「漢方薬はなんとなく効いているのではなく、医学がだんだん進んでくると、漢方薬の効き方もどんどん分かってくるようになる」とおっしゃられていました。
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)とは?
生薬:呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)、人参(にんじん)、大棗(たいそう)
何を治す:手足の冷え、胃弱、項のこり
臨床応用:緊張型頭痛、片頭痛、嘔気・嘔吐、吃逆(きつぎゃく=しゃっくり)
問題なのは手足の冷えです。
手足が冷えて、胃が弱くて、項(うなじ)がこる。こういう人の頭痛は、呉茱萸湯が良いそうです。
薬物乱用頭痛で一番使う漢方薬だそうですよ。
この呉茱萸湯と五苓散の組み合わせはとても良いので、頭痛に悩んでいる人は、まずはこの組み合わせから入って、ダメだったら症状に合わせた漢方薬を考えて飲むといいかもしれない、との事でした。
西洋薬と漢方薬の違い
西洋薬:二重盲検試験で作られた薬。一点集中型。
漢方薬:実際の治療の現場で磨かれてきた薬。全身を見ながら治療する。
※二重盲検試験とは?
正しくは「二重盲検方式に基づく同時対照試験」という。医薬の効果を客観的に検定する方法の一つ。被検者を2つのグループに分け,一方のグループには試験薬を,他方のグループには,外見や味が同じで,薬効と無関係なプラシーボ (偽薬) を与え,どちらのグループにどの薬を与えたかは,医師,被検者ともにわからないようにしておき,結果を推計学的に判定する方法である。
(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)
⇒ただし、これだけでは不十分だと最近は分かってきているそうです。
たとえば頭痛があった場合、
西洋薬:「頭痛がとれるのか、とれないのか?」という一点集中型
漢方薬:頭痛であっても「手足は冷えているか」「むくみはあるか」と全身を見て治療をする
という違いがあります。
それぞれに長所があるので、「どちらが正しい」というものではありません。
(例えば西洋薬の血圧を下げる薬は、血圧が高い状態はとても良くないのでちゃんと飲むべき)
「漢方薬が良い」ではなく、西洋薬の良い所は上手にとっていかなくてはいけない、との事でした。
西洋薬代表のヨーロッパの医者の先生達にも、漢方薬はとても興味をもたれているそうなのですが、薬を1つ国に認めてもらうのに1千万はかかるので、なかなか取り入れるのが難しいのだそうです。
そう聞いた貧乏性な私は「日本にいるんだからもっと漢方薬を使わなきゃもったいない」とか思ってしまいました。
効き方を知って、使い方が上手になると非常に役に立つ漢方薬。
ぜひ、使ってみてはいかがでしょう?